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気 配

 散りそびれた金木犀の名残香を
 日暮れて冷たさを増した風が運ぶ
 一昨日まで聞こえていた蝉の声を
 今日はまだ耳にしてはいない
 冬になるとはこういうことなのかと思う
 季節は忍びこむように近づき
 不意にその気配を私に突き付ける

 駆け下りて転びそうになり
 登るのに疲れたと駄々をこねた道
 この坂を登りつめたところは
 海の見える公園
 大きなナナカマドの木があった家
 かつて私の家だった場所
 
 今、街路樹は沈黙する
 あと数分のうちに
 浅黄色の空に鈍色を刺して夜が訪れる
 帳が降り
 眠れない夜が覆いかぶさる
 焦燥は諦めを友として連れ
 彷徨を繰り返し
 私はここで朝を待つ
 
 母がいて
 幼い妹がその胸に抱かれている
 私は弟とチェス盤を床に置き
 父はロッキング・チェアに深く腰掛け本を読む
 突然、弟が大声をあげる 
 お姉ちゃんがずるをした、と
 妹がその声に驚いて泣き出す
 母はそれをあやしながら私たちに声をかける
 大声をだすからXXちゃんが起きちゃったでしょう
 喧嘩はダメよ
 仲良くゲームをしないさいね、と
 父がこちらを見る
 さっきまで寝ていたバーニーズのセシーが盤の上に飛び乗った
 駒が倒れる
 飛び散る
 何もかもがごちゃごちゃになる
 父が笑っている
 全てが振り出しに戻る
 弟と私は仕方なしに駒を集める

 嘘だ
 そんな記憶はない
 最初から誰も居はしなかった
 父も
 母も
 弟も
 妹も
 覚えていると思っているものは
 そうあって欲しかったと望む私の心
 過去などどこにもありはしない
 確かな過去など存在しはしない
 あらゆるものは書きかえられてしまうのだ
 
 春、ここには沈丁花が香りたっていた
 そんな気がする
 それも私が望んだ景色なのだろう
 今
 街灯もなく
 薄闇に閉ざされて行く中で
 眼の利かないこの世界が
 本当はすべてなのかもしれない 
 浮かび上がるものは私の見たかった世界
 未来が作れるように
 過去もまた作れるのだ
 その後に残るのは
 真実と嘘の危うげな
 あらゆるものの気配
 気配だけがそこにある 

  
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テーマ : 独り言
ジャンル : 日記

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